Fewtech
FEWTECH STORY · 約6分 · 7章

コードを書く前にユーザーが集まった。Nomad Listはなぜ1枚のスプレッドシートから始まったのか

2014年、Pieter Levelsが作ったのは巨大なWebサービスではなく、1枚のGoogleスプレッドシートだった。Nomad Listが小さな実験から世界的なサービスへ成長するまでを追う。

コードを書く前にユーザーが集まった。Nomad Listはなぜ1枚のスプレッドシートから始まったのか
30秒でわかる
  • ・Nomad Listは、世界中の都市を生活費・ネット速度・気候などで比較できるサービスとして2014年に始まった。
  • ・最初のプロダクトはWebアプリではなく、誰でも編集できるGoogleスプレッドシートだった。
  • ・Pieter Levelsは「12ヶ月で12個のスタートアップを公開する」という挑戦の中でNomad Listを生み出した。
01

月700ドルまで落ちた収入

2014年、Pieter Levelsは順風満帆な起業家ではなかった。

世界を移動しながら仕事をしていた彼の収入は、月3,000ドル、2,000ドルから、900ドル、700ドル、そして500ドルへと減っていった。

オランダの実家へ戻ったLevelsは、自分の状況を変えるために一つのルールを決める。

一つのアイデアに何ヶ月も費やすのではない。

毎月一つ考え、作り、そして必ず公開する。

Levels自身が後に振り返っているように、彼には「作り始めても完成させない」という問題があった。

だから12 Startups in 12 Monthsは、成功するアイデアを探すだけでなく、強制的に「公開する人」になるための仕組みでもあった。

その中から生まれた一つが、後のNomad Listだった。

02

「次は、どこで暮らそう?」

当時Levelsは、アジアを中心に都市を移動しながら働いていた。

チェンマイ、バンコク、シンガポール、香港、東京。

場所に縛られず働けるようになると、今度は別の問題が出てくる。

旅行先として魅力的かどうかだけでは足りない。

生活費はいくらか。

インターネットは速いか。

気候は快適か。

長期間暮らしながら仕事をするなら、普通の旅行サイトとは違う情報が必要になる。

Levels自身も当時、月700ドルほどで生活していた。

安く暮らせて、暖かく、インターネットが速い都市を知りたかった。

そこで彼が作ったのが、都市の情報をまとめたリストだった。

ただし、Webサービスではない。

03

最初のNomad Listには、ほとんどコードがなかった

Levelsは都市名と生活費、インターネット速度、気温などをスプレッドシートにまとめた。

そしてTwitterに公開した。

2014年6月、Levelsが実際に投稿したツイート。「デジタルノマドのための決定版リストを一緒に作ってほしい」と呼びかけ、スプレッドシートを公開した。

ここで偶然が起きる。

編集権限を残した状態でシートが共有され、他の人まで内容を書き換えられるようになっていた。

普通なら権限設定のミスだ。

しかし、Levelsはそのまま公開することにした。

すると世界各地にいる人たちが、自分の知っている都市の情報を書き込み始めた。

2014年当時のNomad Listスプレッドシート
当時のスプレッドシート。参加者は都市の情報を埋めるだけでなく、「交通手段」「ビザ費用」「エアコンの有無」といった列まで自分たちで追加していった(出典:levels.io)

Levelsの回顧によれば、数百人規模の人々が参加し、最終的には75都市ほどの情報が集まった。

つまりNomad Listでは、Levelsが本格的なWebサービスを作るより前に、

ことが証明され始めていた。

普通なら、アイデアを思いついたあとにサービスを作り、それからユーザーを探す。

Nomad Listでは順番が逆だった。

スプレッドシートを公開する。

人が使う。

データが集まる。

それを見てから、Webサイトを作った。

04

25都市、3つの数字から始まった

2014年夏、LevelsはスプレッドシートをWebサイトへ変えた。

2014年7月の最初のNomad List
2014年7月、最初のWebサイト版Nomad List。生活費(NomadCost)や気温で都市を並べるシンプルな一覧だった(出典:levels.io)

初期のNomad Listは非常に小さい。

後にLevelsが振り返ったところでは、公開当初は約25都市について、

主なデータはわずか3種類だった。

現在のような巨大な都市データベースを最初から作ったわけではない。

それでも、必要な問いには答えられた。

「安くて、ネットが速くて、暖かい都市はどこか?」

Levelsは完成したサイトをHacker Newsへ投稿する。

結果は1位。

Hacker News 1位の画面
Hacker Newsで1位になったときの画面(出典:levels.io)

さらに、別のユーザーがProduct Huntへ投稿したNomad Listも1位になった。

Product Hunt 1位を知ったときのLevelsの投稿(2014年7月29日)。

Product Hunt 歴代ランキング
Product Huntの歴代投票ランキングでは5位に入った(出典:levels.io)

Levels自身が後に「偶然」と表現するほど、予想を超えた反応だった。

12個のうちの一つとして作った小さな実験が、突然、多くの人に使われ始めた。

05

すべてが成功したわけではない

ここだけを見ると、Levelsが優れたアイデアを思いつき、それを狙い通り成功させたようにも見える。

実際はかなり違う。

彼が現在公開している自身のプロジェクト一覧には、100を超える制作物が並んでいる。

その多くをLevels自身が「Failed」や収益目的ではないプロジェクトとして分類している。

Nomad Listは、その大量の試行の中で残った一つだった。

彼はこの方法を、散弾銃を撃つようなものだと説明している。

一つのアイデアにすべてを賭けるのではなく、作って、公開する。

反応がなければ次へ進む。

反応があったものには、さらに時間を使う。

Nomad Listには反応があった。

だからLevelsは作り続けた。

06

25都市から500都市へ

公開後、Nomad Listは急速に大きくなっていく。

数ヶ月後にLevelsが公開したNomad List 2.0では、対象都市は25から世界500都市へ。

都市ごとのデータも3項目から約70項目へ増え、合計約35,000のデータポイントを扱うサービスになった。

さらにコワーキングスペースやカフェ、ホテルなどの情報が追加され、デジタルノマド同士のコミュニティ機能も統合されていった。

単なる「都市ランキング」だったものが、

へ変化していった。

約10年後、Levels自身が2014年当時を振り返った投稿。

しかし、そのすべてを最初から設計していたわけではない。

最初にあったのは、

「どこへ行けばいいんだろう?」

という一人の人間の疑問と、一枚のスプレッドシートだけだった。

07

小さく作ることは、小さく終わることではない

Nomad Listの話で面白いのは、「1人で大きなサービスを作った」という結果だけではない。

都市データを扱うサービスを作ろうと思えば、データベースを設計し、管理画面を作り、投稿機能を実装し、ユーザー登録を作ることもできた。

Levelsはその前にGoogle Sheetsを公開した。

それだけなら数時間でも作れる。

そして、誰かが使うかを見る。

Nomad Listの場合、そのシートを他人が編集し始めた。

だから次を作った。

Webサイトにも人が来た。

だからさらに作った。

必要になったときに、必要なものを足していく。

その繰り返しだった。

現在、LevelsはNomads.com、Remote OK、Photo AIなど複数のサービスを運営している。

しかし、そのキャリアを代表するプロダクトの一つは、洗練されたコードベースから始まったわけではない。

作りたいものがあると、最初から完成形を考えてしまう。

どの技術を使うか。

どんな機能を入れるか。

将来どうスケールさせるか。

Nomad Listが示したのは、その前に確認できることがあるということだ。

Levelsはコードを書く前に、その答えを見つけた。

読了 ✓

最後まで読んでくれてありがとう。

PRODUCT DATA
プロダクト
Nomad List
人数
1人
収益規模
$50K〜
開発期間
5ヶ月
この裏側の技術を見る
この記事をシェアX (Twitter)Facebook
FEWTECH STORY
FEWTECH STORY · 約6分 · 7章

コードを書く前にユーザーが集まった。Nomad Listはなぜ1枚のスプレッドシートから始まったのか

タップ または スワイプで次へ →